Brunei Traditional hand-woven TEXTILE
ブルネイ布織物について

ブルネイ布織物とは

ブルネイ・ダルサラーム国は東南アジアの南シナ海に面したボルネオ島に位置し、石油・天然ガス等天然資源が豊富な王国です。そのブルネイ・ダルサラーム国の代表的な伝統工芸品の一つにブルネイ布織物があります。ブルネイ布織物は伝統を取り入れた芸術的織物として東南アジアでは古くから有名な布として知られています。マレー語でカインテヌナン(布織物)と呼ばれており、ブルネイ・ダルサラーム国では主に民族衣装腰巻(シンジャン)として使用されています。このブルネイ布織物はブルネイ・ダルサラーム国独自の織り技術であり、他のアジアの国では織る事ができない高品質な布です。複雑なデザインに金糸・銀糸を使用して織られ大変重厚感があり、光沢のある美しい布織物です。また、刺繍のように見えるほど繊細であり、表でも裏でも模様として織られているのがブルネイ布織物の特徴です。独自の文化が根付いているからこそ、ブルネイ布織物は素晴らしいものを作り出し、何世紀にもわたり今日に至るまで布織物に対する誇りや伝統を守りながら地域の産業として引き継がれてきています。

布織物スタイル

ブルネイの織布1枚は、通常民族衣装用腰巻に使用する大きさとして縦2.2メートル、横0.8メートルで織られています。織り手の仕事の進む速度にもよりますが、単純なデザインでは約10日から14日で完成します。繊細で複雑なデザインになればなるほど多くの時間を要するため、完成までに数か月にも及び長期間の日数がかかります。織り手は布織物に必要な糸の基本色等を選択し、手織り機で織ります。昔の布織物は絹糸が使用されていましたが、今日では綿糸や絹糸の他に日本製の糸が多く使用されています。布織は初めに図柄を描く事から始まり、デザインを確認してから用紙に描きます。図柄を描くことは大変重要な作業であり、間違いが一つでもあれば布製作に支障をきたしてしまうので、細心の注意を要します。布織物に描かれる図柄は、美しい幾何学的模様の図柄や自然豊かな地元にある花や葉の様な植物が基になっています。そして、その様な植物のアイディアを活かしたデザインをモチーフにして、独特なブルネイオリジナルデザインが描かれています。

布織物にはその図柄に準じて多くの名前が付けられています。例えば、ブルネイ布織物の名前の中に、最も有名な名前カイン・ジョンサラットと呼ばれているデザインがあります。このカイン・ジョンサラットはフルパターンアレンジ図柄の代表的な布織物の一つです。王族や国家行事、結婚式の新郎新婦の衣装用として使用されており、ブルネイ・ダルサラーム国では大変よく知られています。
また、カイン・テヌナン(布織物)は一般に2つの名前に分けられています。カイン・テヌナン・ビアサ(kain tenunan Biasa)と呼ばれるマットな仕上がりの布織物では、縦糸、横糸に綿や絹の糸が使われています。金糸・銀糸などや色違いの糸はモチーフのみ使用されます。カイン・ベパカン(kain Bepakan)と呼ばれる光沢のある仕上がりの布織物では、縦糸、横糸の綿糸や絹糸の間に金糸や銀糸が交互に織り込まれているため、生地にキラキラとした光沢が出ます。今日では、織り手は時代と共に現代ファッション様式にも対応できるように、お客様の要望に応じてデザインして図柄の立案をしています。織布1枚の価格は通常ブルネイ数百ドル以上から、デザイン、長さ、糸の使用に応じて数千ドルに及びます。
手織りの布や生地に代表される織物工芸品は、高価格ですが美しい図柄やデザインを伴った高品質な織物です。また、織布は現在では民族衣装の使用だけではなく、クッションカバー、テーブルクロス、財布、バッグ等に多くの商品価値を見出して様々なアイテムを製作し販売されています。

歴史

布織物は最初ブルネイ・ダルサラーム国の首都バンダル・スリ・ブガワンにあるカンポン・アイール(水上集落)で織られていました。歴史は古く、1485年から1524年まで君臨していた当時のボルキア国王の時代に最も古い記録があります。大航海時代、ポルトガル人である冒険家フェルディナンド・マゼランによる史上初の世界一周航海の際に、当時の艦隊は1521年ブルネイを訪れていました。フェルディナンド・マゼランの世界周航には、イタリアの航海者アントニオ・ピガフェッタが同行し、航海の間は記録係として詳細な記録を取り続けていました。ブルネイを訪れた際には、特に布織物である工芸品の素晴らしい実物を見て記録し、ブルネイ布織物が世界に紹介される事となりました。ブルネイ伝統工芸品の銀製品・真鍮製品・木工品等は、大昔から父が息子に技術を教えていく手順で受け継がれてきました。しかしながら、伝統工芸品のブルネイ布織物は昔から母から娘に技術を教え、芸術性や根気強さを培って高い技術を要する手織り機を操作して織られてきています。布織物は当初毎日の雑用が終わった後に織られていました。その後、女性は布を織る時間を工夫し有効活用して、自宅で夫達が日常の生活の仕事から帰宅するのを待っている間に布織物を織るようになりました。そして、機織りが女性の生活の主要な活動基盤になっていきました。

マゼラン艦隊 出展:エンパイアホテル

ブルネイ布織物の展望

歴史あるこれらの工芸織物は他のアジア諸国にはないブルネイ・ダルサラーム国の独自の高品質な製品を織ったとして、国際的な賞で表彰され世界に認められています。そのような素晴らしいブルネイ布織物は高い評価を受け、UNESCO-AHPADA(国連教育科学文化機構 – ASEAN手工芸促進開発協会)によって、2002年と2003年にBAHTC(ブルネイアート手工芸トレーニングセンター) の布織物が表彰され、「優秀」の証と認めた賞を与えられました。BAHTCは、当初1975年9月に設立されました。1984年には場所をバンダル・スリ・ブガワンへ移転し、正式に新しくセンタービルとして開設しました。ブルネイ布織物の伝統や技術保護のため国王政府やブルネイの Yang Di-Pertuan は、ブルネイの伝統工芸手仕事コースとしてBAHTCを確立し伝統維持の存続をしています。BAHTCの設立から30年以上経ち、BAHTCは布織物について専門とする卒業生を数多く輩出してきました。卒業生は織り手として今日に至るまで伝統や織物技術を守りながら様々な布織物を作り出しているだけではなく、同時に布織物商品の起業家としてさらなる発展を期待されています。このようにブルネイ布織物は、卒業生が誇りある伝統工芸織物の担い手となり、アジアの代表的な織物として世界に向けて幅広く発信しています。そして、美しいブルネイ布織物はブルネイ・ダルサラーム国の宝物であり、次世代へ向けて脈々と引き継がれています。